すがも薬膳薬局 中垣 亜希子 様

すがも薬膳薬局 中垣 亜希子

「正気(せいき)を養い、邪気を取り除くこと」が予防と治療のカギ
 今回の新型コロナウイルス感染症は、基礎疾患のある方は重症化しやすい一方で、軽症あるいは感染しても発症せずに免疫だけ獲得して済んでしまう無症状の方もいるといいます。
人類を振り回しているこの感染症。
老いも若きも、ひとつの生命体として、その生命力を問われているような気がしてなりません。
防衛能力・抵抗力・免疫力のことを、中医学(中国伝統医学)では「正気(せいき)」といいます。
「正気存内、邪不可干(正気が体に充実していれば、邪気はつけ入る隙がない)」という古代中医学書の有名な言葉があります。「邪気(じゃき)」とは人体に悪さをするものです。
「正気」を充実させるためには、人体を構成する3大要素の「気・血・津液(き・けつ・しんえき)」などを不足なく充実させること。さらに、全身すみずみまで、滞りなく巡らせることが大切です。
「気」は、「元気・気力」などの「気」で、エネルギーやパワーのこと。「血」は血液。「津液」は血液以外のすべての体液のことをいいます。
さて、さまざまな「気」の中でも、体表をぐるぐる巡って、ウイルスや細菌・気温や気圧の変化・花粉などのアレルゲンなど外界の刺激から最前線で人体を防衛する気を「衛気(えき)」といいます。
五臓六腑の中で、「衛気」に最も関係するのは「脾・肺・腎」の3つの臓です。(※中医学の「肝・心・脾・肺・腎(かん・しん・ひ・はい・じん)」の五臓は、西洋医学の「肝臓・心臓・脾臓・肺・腎臓」とは違う概念なので、注意が必要です。)
特に、「脾(消化器系)・肺・腎」の在り方を整えることが防衛力・免疫力を底上げすることにつながりますが、どのように整えるのか具体的な方法はひとりひとり異なります。

漢方の本場・中国では西洋医学と中医学を併用して対処
武漢の15ヶ所のコンテナ病院の中で唯一、中医学医療チームによってできた病院では、軽症と中等症の患者に対して清肺排毒湯などを状態に応じて投与し、多くの患者は八段錦・太極拳などの気功や鍼灸治療などを併用しました。伝統医学を活用したことで、症状は明らかに改善され、重症化率が減少しました。
武漢市で新型コロナウイルス感染症治療に当たった伝統医療の医師4900名はそれぞれ自分に合った漢方薬を予防で服用し、一人も感染者が出ていません。

シニア世代の予防の漢方、新型コロナウイルス感染症と「湿邪」の関係
漢方薬には、「養生(予防)のために飲む漢方薬」と「治療のために飲む漢方薬」があります。
ご高齢者は、日々の養生・予防のために、人参・黄耆(おうぎ)・白朮(びゃくじゅつ)・紫河車(しかしゃ)・地黄(じおう)・冬虫夏草・霊芝・西洋人参などの「補薬(ほやく)」を中心に用いて体質強化します。
また、今回の新型コロナウイルス感染症は「湿邪(しつじゃ)」が関係し、「肺と脾(消化器系)」に影響するのが特徴の一つです。「湿邪」とは、「湿気の邪気」のこと。
加齢により水液代謝がうまくいかないと、常日頃から体内に水がダブついて湿気がこもり、[舌苔が多い、舌の両端に歯型(波型の模様)がある、胃腸虚弱、胃もたれ、むくみ、痰、鼻水、重だるい]などの症状があらわれます。
体質的にもともと上記の症状がある人は、外界からの「湿邪」の影響も受けやすい傾向がありますので、深呼吸・胃腸に優しい飲食など「養生」に気をつけつつ、予防のために水液代謝を調整する漢方薬を飲むといいでしょう。
基礎疾患がある方、濃密接触者(ハイリスク者)は…
 肺疾患、心疾患、高血圧、糖尿病などの基礎疾患がある方は、まずその基礎疾患を引き起こしている体質そのものを改善すること自体が、「正気」を充実させることにつながります。
また、濃密接触者(ハイリスク者)は、上記した「補薬」などで正気を養うほか、板藍根・金銀花・大青葉など抗ウイルス作用があるとされる中薬を併せて用いるのもいいでしょう。「扶正祛邪(ふせいきょじゃ)」といって、「正気を養い、邪気を取り除くこと」が予防と治療のカギです。

おすすめ養生法
身体の抵抗力・免疫力をつけるために、第一に大切なのは「養生」。
「養生」とは、読んで字の如く、「生き方を養うこと」。
良質な睡眠・適切な飲食・適度な運動・リラックスした精神状態(穏やかで朗らかな心の在り方)が基本です。ストレスによって気の巡りが悪くなることは免疫力に大きく影響します。心と体のバランスを整えることは、中医学の得意分野の一つでもあります。
養生の真髄は、「やってはいけないことを徹底的にやめること」。巷で流行る健康法をあれこれするより、やってはいけないことを徹底してやめる方が、手っ取り早く効果があります。
まずは、夜更かしをやめて、なるべく早寝すること。また、ストレッチや体操など適度に身体を動かして、気・血・津液を巡らせましょう。気功や太極拳は特におすすめです。
そして、食養生に関しては、生冷飲食(冷たい飲食、生の魚介類、生の野菜や果物)・肥甘厚味(脂っこいもの、甘いもの、味が濃いもの)・刺激物(唐辛子などの香辛料を含むもの、アルコール、喫煙)は、胃腸に負担をかけるので控えめに。常温の飲食も深部体温(内臓)より低いので気をつけます。特に胃腸虚弱のご高齢者は、必ず「火を通して温かい状態」で飲食すること、さっぱりとして栄養バランスのとれた飲食をおすすめします。そして、暴飲暴食は避けること。
胃腸を弱らせてしまうと、「正気」が弱り、からだ全体の防衛力・免疫力が低下します。
「冷えは万病の元」といいます。腹巻・ウォーマー・タオルを巻くなどして、首・足首・腰やお腹まわりなどを特に冷やさないよう気を配りましょう。
また、足湯(着衣で膝下を40℃のお湯に20分前後、時間や温度は個人で調節)は、内臓から温まります。生薬入りの薬湯にすると、なお効果的です。

ひとりひとり体質に合った漢方薬を
正気を養い邪気を追い出すための漢方薬は、ひとりひとり異なります。気・血・津液や五臓六腑のバランスの崩れ方、ストレスの受け方はひとそれぞれですので、体質に合わせた五臓六腑・気血津液のバランスの整え方が必要です。
上述した様々な漢方薬・中薬はどれも体質を選びます。自己判断で服用せず、必ず専門家に体質・症状について詳しく相談した上で選んでもらいましょう。

参考文献:
1)渡辺賢治ほか:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割,日本医事新報社
[https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14426]
2)小川恵子:COVID-19感染症に対する漢方治療の考え方(改訂第2版)
[http://www.kansensho.or.jp/modules/news/index.php?content_id=147]
3)渡辺賢治ほか:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する未病漢方活用法 ,一般社団法人 漢方産業化推進委員会
[https://kampo-promotion.jp/topics/2020/05/20200507152140.html]
4) 神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社2004年
5)中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社1994年

すがも薬膳薬局店主。国際中医師、国際中医薬膳師、医学気功整体師、管理薬剤師。東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学日本校等にて中医学を学ぶ。漢方相談のほか、自治体等の依頼により中医学の講演・執筆を務める。「顔をみて病気をチェックする本」(猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。マイナビ薬剤師「薬+読」サイトにて、中医学を一から解説【まるわかり中医学】を毎月連載。
すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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